2004年は、長く暑い夏、度重なる台風と多量の降雨、暖かい冬…‥と果樹にとって過酷な1年でした。
したがって果物の品質も、全国的に夏まではよく、秋冬からは影響が出ました。桃は味もよく、安定した量もあり、お客様からのリピートも多い年でした。
ぶどう類は、秋から若干品質が低下し、量不足があったものの他産地に比べ概して良好。柿も、富有柿では本場岐阜をひかえる名古屋においても、味の評価には高いものがありました。厳しい条件下では、産地レベルがより鮮明になり、品質の評価に差が出ることを改めて思い知る年となりました。
今年のように天候が異常な年は、今後増加していくように思われます。果樹管理の徹底はもちろん、適地適作(変わりつつあるが)をより進めることで当面は対応するべきことでしょう。
しかしながら、将来的には、山形のサクランボが屋根掛けで飛躍的に品質を向上・安定させたように、施設による対応を考えねばならないのかもしれません。少なくとも、今までのハウス栽培とは違った考え方での施設園芸の方向性も視野に入れておく必要があると思います。環境対応型の施設園芸で天候の振幅による品質の振幅の同調を抑制し、効率のよい品質と収量の獲得を可能にすることが日本の果樹園芸の未来像になるのかもしれません。
販売環境も、この数年で劇的な変化がありました。殊に、BSE問題以降、トレーサビリティが取沙汰され、より素性のはっきりしたものを正確に販売していくことに特に重点が置かれています。
以前では、当たり前の流通がいつの日からか、農作物が工業製品のように規格化され、量的安定と定価額を最優先することになった頃から、数合わせのための作為が入ってしまいました。我々、果物専門店(果専店)からすれば、過度の規格商品化は贈答需要を失うばかりでなく、品物に対する正当な価格形成の足かせとなっているように見えます。同じデザイン、同じ量目の箱(お客様がお持ちになるロット)に入った商品であれば、お客様は、できるだけ価格の安いところでお買い求めになります。そうあれば、販売する方も競争原理が働き、できるだけ多く売るために、安く売れるよう流通業者は努力します。箱の中身の評価を価格で反映することはなく、産地は市場への量のコントロールで価格を維持します。これは農作物、特に果物という食品、嗜好品の価格を決定(品物の評価)する方法として妥当とは思えません。今まで、量販店のオペレーションは、1個200円で売れる桃(食品売場の相対的な価格から1個200円なら桃は売れると判断)を探し、それが輸入品であっても(あるいは海外に作らせても)一定のレベルをクリアしていれば、それを入手し販売してきました。比べて我々果専店では、品物そのものに評価(価格決定)をし、その仕入額に応じて売価を決定しています。
つまり、果専店では、従来より、生産者名や生産者NOの入った荷物を目で見、味を確かめ、お客様の必要に応じた形態で、提供・販売してきました。今まさに手法(販売技術)は別としても、その品物に対する優しく細やかな視点や姿勢を再評価し、基本的な理念にたち帰るべき時がきたように思います。
人口が減少し、高齢化が進むのは、作る側も買って食べる側も同じです。量が減り、質を求められる市場へと成熟していく中で、お客様のニーズにこたえるには、質を評価できる仕組みを再構築するべきです。本質を見つめ評価することがすなわちトレーサビリティであり、歪んでしまったシステムを是正することが、今日的な問題をスムーズにおさめる方法なのではないかと思います。農業に対する社会のニーズや消費動向などの大きな流れは共通した認識として共有すればよいのであって、生産者個々人は、むしろ、出荷の体制やフォームにとらわれ過ぎず、以前そうであったように作物そのものに目を向けて、よりよいものを作るための気持ちの方向性を取り戻していただきたく思います。流通させる側の引き起こしたものを、作り手側に解決させようとするのは、問題のすり替えでしかありません。
罪悪を犯していないものが、何の防御、反論もなく情報による損害にあうことがないよう、安心して生産に専念できる環境を組織として確立していただきたいものです。果物ほど、作り手の姿勢や気持ちがその姿形・味に表れるものは他にありません(特に昨年のような天候的に過酷な年はそうでした)。作り手(生産者)の作品にファン(お客様)が魅力を感じ、評価(買い物)し、好きになっていけるように、力のある作品を健全な流通で評価できることが、日本の果物の価値です。作り手の裁量でいろいろな作品を伸び伸びと世に出すことで、さまざまなファンを獲得できる環境つくりを果専店として今後も応援し、協力していきたいと思います。